大旗連合建築設計株式会社 和泉有祐氏。幼いころから建築に触れる環境に育ち、建築家を志し進学。長年、東京のアトリエで腕を磨く。10,000㎡以上の大型建築物の実績を持ち、その後、家族で広島に移住し、当地に本社を構える『大旗連合建築設計』へ入社。
インスピレーションを受け建築に関心を抱くようになった幼少時の経験、学生時代の強烈な個性を放つ恩師との出会い、東京で腕を磨いた成長の軌跡、そして、個性豊かなチームをまとめるリーダーとして建築を完成させる、現在の和泉氏。
多忙な毎日を送りながらも、クライアントの価値観をデザインに表現する技術と、卓越したリーダーシップとを併せ持つ同氏を、深く掘り下げたいと思い、多忙な中、同氏が志向する建築デザインとは?、アイデアのインプット?、そして建築の未来などについてお話しをお聞きして来た。今回は、大旗連合建築設計にて実際に同氏が打合せを行っている一室にて伺ってみた。

大旗連合建築設計株式会社 和泉有祐 -IZUMI YUSUKE-
1985年 兵庫県姫路市出身
2007年 山口大学工学部感性デザイン工学科 卒業
2009年 山口大学大学院理工学研究科 修了
2010年~2011年 中山英之建築設計事務所 勤務
2011年~2019年 シーラカンスアンドアソシエイツ 勤務
2019年 大旗連合建築設計株式会社 入社
AWARD
2020年 広島中央警察署交通交番庁舎 プロポーザル ファイナリスト
2023年 旧山口井筒屋宇部店跡地利活用事業 プロポーザル 特定
建築士を目指したきっかけ
兵庫県姫路市出身の和泉氏は、幼少期から建築に触れる環境にありました。
親戚が大工だったため、工事現場で人が集まる場所が生まれる瞬間を目にしたことが原体験です。また、高校時代には神戸の街並みが持つ多様性と雰囲気に感銘を受け、建築への興味が深まり山口大学工学部感性デザイン工学科へと進学しました。
大学では、建築家・内田文雄教授から「建築は個人の価値観の表現」という強い信念を学びました。在学時、ヨーロッパやアジア圏を訪れ、多様な文化、建築に触れることで、人の営みと建築のあらわれ方の奥深さを実感しました。
東京では建築家・中山英之氏に師事した後、全国的にも有名な建築設計事務所であるシーラカンスアンドアソシエイツへ加入しました。2つの事務所で多様な価値観に触れ、建築を構想する時に考えるアイデアの奥深さを知り、大規模プロジェクトの現場常駐を通じて、職人やチームとのコミュニケーション、現場力を身に付けました。これらの経験が、自身の建築家としての基盤を築いてくれたと感じています。

建築設計において大切にしていること
和泉氏は「建築はチームで作るもの」と考えています。
クライアントやチームメンバーの長所や特徴を見い出し、どのような形でバランスさせるかを日々考えており、それが彼の設計の核です。クライアントに合った建築を作り、その上で何を特長と捉えるかは、自身の視点や価値観に委ねられているという信念を持っています。
さまざまな価値観を受け入れつつ、それをまとめ上げるためには、技術だけでなく、「人を見て、共に作る」ことを大切にしています。
御自身の印象に残っている作品を教えて下さい
和泉氏は、広島県竹原市内に新築した株式会社セトウチの新本社ビルは、特に印象に残るプロジェクトとしています。前職では学校や市役所などの公共建築を手がけており、10,000㎡を超える大規模な案件も多かった中、新本社ビルは1000㎡ほどの規模。決して大きくはないものの、どれだけ多様な環境を作れるかを追求した点が特徴です。
自然光や風の導入、窓からの距離で変化する明るさなど、さまざまな要素を設計に盛り込み、働く人が自分に合った空間を選んでもらえる建築を目指しました。社員全員が固定席という制約がある中でも、移動や視線の変化を意識し、外界とのつながりを感じられるように工夫しています。
さらに、このプロジェクトではクライアントの価値観を直接感じながら設計するという新しい経験を得たと語ります。これまでの不特定多数の利用者を想定した設計とは異なり、クライアントの想いを直接受けとめることで、より深く「その人にとって大事なもの」を考え抜いたプロジェクトになりました。成功と課題が交錯する中でも、新たな一歩を踏み出せた特別な仕事となっています。

『株式会社セトウチ新本社ビル』©ToLoLo studio

『内観1F』©ToLoLo studio

『内観2F』©ToLoLo studio
建築を考える時のアイデアや技術はどのようにインプットされていますか?
和泉氏の建築設計におけるアイデアや技術のインプットは、これまでの体験や日常の観察が大きな影響を与えていると言います。
東日本大震災復興におけるプロジェクトを経験しています。同プロジェクトでは、土木の知識も深め、擁壁など建築以外の分野に踏み込むことで、設計の幅を広げました。
また、旅行先で歴史的建造物や街並み、自然発生的な風景を観察し、それが建築にどのように生かせるかを考えることも重要な要素となっています。さらに、文化や価値観の違いを理解し、設計に反映する力を磨いてきました。
このように、自分の体験や学びを積極的に吸収し、それを建築設計に繋げる姿勢を常に持ち続けることが重要だと考えています。
持続可能な建築の未来とは
和泉氏は、持続可能な建築の未来について、過去の価値観と新しい建築の調和を大切にしています。現代の建築は「0から1」を目指すのではなく、普遍的な価値観を引き継ぐべきだと考えています。また、人々が心地よいと感じる空間を創り出すことが重要であり、古い教会や自然の景観から感じる普遍的な美しさを、現代建築に活かしたいと語っています。
特に「光」の取り扱いに関しては、建築の普遍的なテーマであり、光が空間にどのように作用するのかが、建築の印象を決定すると考えています。光が丁寧に扱われ、必要な場所に適切に入ってくることが、心地よい空間作りの鍵であると語ります。
最終的には、自身の価値観を大切にしつつ、他者の価値観を取り入れながら、建築の普遍性と個性の両立を目指すことが、持続可能な建築の未来に繋がると信じています。


『株式会社セトウチ新本社ビル』©ToLoLo studio
大旗連合建築設計株式会社 https://oohata-arch.co.jp/
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