谷川智明氏。
株式会社SWITCH 代表取締役。
建築や音楽を心から愛し、独学で建築を学ぶ。
『こだわらないのがこだわり』を信条にし、おりづるタワー1F握手カフェ、広島銀行のコワーキングスペース『Hiromalab』他、これまで多くのショップやクリニック、サロン等のデザインを手掛けている。
バックグラウンドが理系であることが多い建築の世界において、文系出身であることを武器に独自な手法で構想を練り上げる谷川氏が、建築家に目覚めたいきさつ、日々どのようにして作品を創り上げるのか、アイデアのインプット、サステナブルな建築について、柔軟な視点から語ってくれた。今回は、谷川氏自身がオープンさせたカフェ『PLACE』にてお話しを伺ってみた。
株式会社SWITCH 代表取締役 谷川 智明
1972年 広島県生まれ
1994年 広島修道大学商学部卒
2012年 株式会社SWITCH設立
AWARD
JCD CHUGOKU DESIGN AWARDS2018 グランプリ賞(小石sake bar)
ひろしま住まいづくりコンクール2018 優秀賞(舟入本町の家)
JCD CHUGOKU DESIGN AWARDS2019 最優秀賞(粉こから大手町店)
第17回 ひろしま街づくりデザイン賞 街並み部門 奨励賞(KOIPLACE)
第41回 繊研賞(TrunkMarket)
「KOIPLACE」
建築士を目指したきっかけ
谷川氏が建築士を目指したのは、決して計画的なものではありませんでした。実家が電気工事の会社を経営しており、その手伝いをする中で多くの建築雑誌に触れる機会がありました。呉市や広島市の建築家のプロジェクトに関わる経験を通して、自然と建築に興味を持つようになりました。
ある時、広島市内で仕事が増えてきたことから、拠点が欲しいと思い、若手建築家やデザイン事務所の方々と一緒に小さな古いビルを一棟丸ごと借りることになりました。このオフィスは間仕切りもないオープンな空間で、谷川氏は、日々隣で彼らが打ち合わせをする姿を見て、彼らの情熱やストイックな姿勢に感銘を受けました。特に建築家を目指す若手の姿勢や仕事ぶりに触れることで、自分も建築の道に進みたいという気持ちが、しだいに強まっていきました。
最初は見よう見まねで始めましたが、実際に現場で建物の成り立ちを学びながら、独学で設計の技術を磨いていきました。2012年には株式会社SWITCHを設立し、これまでの経験を活かして建築家としての道を歩んでいきます。若い頃はコンビニで立ち読みした建築雑誌や音楽からインスピレーションを得ながら、目の前にある機会を一つ一つ掴み取るという、独自の手法で建築士としてのキャリアを築いてきました。
建築設計において大切にしていること
谷川氏が建築設計で大切にしているのは、クライアントのニーズを深く理解し、それを形にすることです。作風にこだわることなく、環境や対話から得られるヒントを基に、ふさわしい空間を具体化することを心掛けています。特に、『環境は変えられない』 ため、その制約内で最大限の創造性を発揮することが重要だと考えています。
例えば、お店や住宅など、用途は様々ですが、クライアントとの対話を通じて、言葉の奥に存在する潜在的なニーズを導き出し、それに応える設計を行います。クライアントの価値観や要望は人それぞれ異なるため、丁寧にヒアリングを重ねることで、最適な提案を行っています。
多くの優れた建築家が理系のバックグラウンドを持つ中、谷川氏は文系出身であることを逆に武器とし、対話を通じてクライアントとの距離を縮め、信頼関係を築いています。
最初からクライアントと打ち解ける場合もあれば、少しずつ関係を築いていく場合もあります。谷川氏は、これからもクライアントとの対話を大切にし、求められる空間を提供していきたいと考えています。
御自身の印象に残っている作品を教えてください
谷川氏は、4月まで営業していた「おりづるタワー」の1Fにあった握手カフェを印象に残る作品としています。ここでは、和紙の照明を使い、イサムノグチのデザインを取り入れました。彼は広島とも縁が深いため、おりづるタワーという特別な場所に、イサムノグチの照明を用いることで、場所の意味を強調しました。また、最初に設計した友人の歯医者も印象深いです。20年ほど前、右も左もわからないまま、友人の依頼を受けて初めて設計をしました。その時は、本当に一生懸命で、設計の基本すら手探り状態でした。友人とは今でも交流があり、当時のことをよく話します。彼が覚えているのは、僕が「ここは絶対にこうするべきだ」と強く提案したことです。それが彼にとっても納得のいくものであり、今でもその設計が評価されています。この経験を通じて、クライアントのために全力を尽くすことの重要性を学びました。また、初めての設計で感じた達成感と充実感は、今でも忘れられません。この経験が谷川氏の設計スタイルの基盤となり、どんなプロジェクトでもクライアントのニーズを深く理解し、それに応えることを心掛けています。最初の仕事だからこそ、強い思い入れがあり、今でも大切な思い出となっています。
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建築を考える時のアイデアや技術はどのようにインプットされていますか?
谷川氏が建築のアイデアや技術をインプットする方法は、『日常生活の中で自然に学ぶこと』です。旅行や出張の際、訪れる場所や宿泊先、レストランなどで新しいデザインに触れることを大切にしています。新しい場所では常にアンテナを張り巡らせ、建築やインテリアのディテールに目を向けます。特に、古くからある手法でも新鮮に感じるものや、ユニークな空間の解決方法に出会うと、感性が刺激されます。
普段から意識的にこうしたインプットを行うことで、プロジェクトごとに最適な解決策を見つけるための引き出しが増えていきます。具体的には、家具のデザインや照明の配置など、細かい部分にも注意を払い、メモを取ります。これらの情報をストックし、プロジェクトの要求に合わせて適切に編集して活用していきます。
谷川氏は、従来のものに縛られず、新しい発見や驚き、遊び心のあるデザインに触れることで、自分自身の感性を常に更新し続けています。こうした日常の中での学びと発見が、自身の設計におけるアイデアや技術の基盤となっています。建築は常に進化しているので、最新のトレンドや技術をキャッチし、自分の作品に取り入れることが重要だと考えています。
持続可能な建築の未来とは
谷川氏は、持続可能な建築の未来は、環境に寄り添うことが重要だと考えています。『過去のスクラップアンドビルドの時代から、既存の建物や資源を見直し、再利用することが求められている。環境に配慮しながら建物の寿命を延ばすためのリノベーションやリサイクルは、現代の建築において欠かせない要素』 と、語っています。
法律や規制の変化に対応し、防火地域での木造建築の制約を考慮しながら、既存の建物を新しい用途に適応させていく。このようなアプローチが、環境への負荷を減らし、持続可能な未来を築くための鍵となるという考え方を、谷川氏はとても大切にしています。
『僕のキャリアの初期には、新築が主流でリノベーションの概念はほとんどありませんでした。しかし、今では物の価値を再定義し、既存の建物をどのように再利用していくかが重視されている。築35年の建物を再利用する方法を考えたり、古い建物を新しい用途に適応させたりすることで、資源を無駄にせずに済んでいる』。
環境に優しい建築を実現し、既存の資源を最大限に活用することが、未来の建築にとって不可欠であり、この考え方を取り入れることで、建築業界はより持続可能な方向へと進化していくでしょう。
「TrunkMarket」
【撮影:@PLACE】
平和大通り沿いに、地元の素材を活かした料理と、カフェ・バースペースを併せ持つ新しいスタイルのお店 『PLACE』。
これまでにない、多様な使い方ができるお店として、谷川氏が自ら構想し、株式会社SWITCHが運営しています。
後日、昼間にフラッと立ち寄りますと・・・、
旬な素材を活かしたお料理を楽しむ人、バースペースで店員さんとおしゃべりしている人、カフェ席で打合せを進めるビジネスパーソン、
いろんな方が、それぞれPLACEという空間を、まさに多様に楽しんでいました。
奥にはお庭もありました。存在感のある植栽に囲まれて四季を感じ座ってくつろげる空間になっています。
株式会社SWITCH https://switchdesign.jp/
※このページ内の情報は、取材当時のものであり最新のものと異なる可能性があります。